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サマリー
目次
冊子版の正誤表
マスコミの反響

サマリー
最近では,廃学やカリキュラム変更,夜間コースの廃止,アウトソーシングなどによって,雇い止めや減ゴマが増える一方で,大学院重点化で非常勤講師予備軍は日々増産されており,非常勤講師をめぐる労働環境はますます厳しいものになっています.他方,2002年度は国会でも大学非常勤講師問題が何度も取り上げられ,厚生労働副大臣が国会で 「(非常勤講師の問題を) 何とかしてあげたい」 と発言するなど,非常勤講師運動の前進を確信した年でもありました.

しかしながら,非常勤講師の労働実態はあいかわらず全く把握されていません.例えば,文科省の『学校教員統計調査報告書』や『学校基本調査報告書』 といった統計データの中の非常勤講師の人数は延べ人数であるため,3校に勤務していれば3人と数えられており,兼職状況は調査の対象となっていません.つまり人数すらわかっていないのです.参考までに,文科省の調査 『学校教員統計調査報告書』(2001年度) (p.99参照) によれば,全国の専業非常勤講師は大学と短大を合わせて延べ66,813人ですが,今回の調査の平均勤務校数2.7校で割れば,全国に約25,000人の専業非常勤講師がいると推測されます.

私たちは文科省に対して大学非常勤講師の実態調査を行うよう再三要求していますが,はかばかしい回答はありません.そこでこのたび首都圏,阪神圏,京滋地区の非常勤講師3組合が共同で調査を行いました.これは大学教員の底辺に位置する労働者が,自らの手で自らの実態と声を集めたデータです.以下にアンケートの結果から見える専業非常勤講師の「平均像」をまとめました.

現在大学の教員が,常勤,非常勤,任期のあるなし,年俸制など多様であると同じように,非常勤講師の実態もまた多様です.平均からは見えてこない実態や声もありますので,平均以外のデータは本文を,また生の声は自由記述をご覧ください.この「多様化」の時代,それぞれの実態を把握した上で,違いを乗り越えた連帯が必要です.このデータを運動に生かし,共に進みましょう.

アンケートが明らかにする専業非常勤講師の実態
※ここで,専業非常勤講師とは,他に常勤の職を持たずに,もっぱら大学非常勤講師をして暮らしている人のことです.ここには予備校で教える等,他の非常勤の仕事との兼職者も含めます.用語,分類について詳しくは13ページをご覧下さい.

専業非常勤講師の57%が女性で,43%が男性,平均年齢は42.4歳です.

専業非常勤講師の60%は語学を担当していて,52%は講義を担当しています (一部重複).

専業非常勤講師の経験年数の平均は10.3年,平均2.7校を掛け持ちしています.

専業非常勤講師の担当コマ数の平均は,大学非常勤のみを仕事にしている人では9.1コマ,予備校等他に兼職のある人では,大学で5.1コマ,大学外の教育職で2.2コマ,教育職以外の労働時間が平均5.7時間です.

授業9.1コマは,それだけなら週13.7時間の労働ですが (1コマ1.5時間),授業をするためには,準備や後片付けも必要です.専業非常勤講師が1回の授業の前後に使っている時間の平均は3.2時間です.それを入れて計算すると,週9.1コマは週42.8時間労働となります.

試験の時期には更に時間が必要です.専業非常勤講師は試験の作成のために平均3.6時間,採点のために平均5.9時間費やしています.9.1コマ担当だと,試験の前後には,合計86.5時間の労働が上記とは別に必要となります.

専業非常勤講師の年収平均は287万円で,48%の人が年収250万円以下,34%の人が200万円以下です.その少ない収入の中から,本や機材の購入費,学会や研究会,研修への参加費や旅費などは,ほとんどすべて自前です.専業非常勤講師は平均29万円 (平均年収の10.1%) を授業・研究関連で出費しており,それに対する公費はほとんどあるいは全く出ていません.

専業非常勤講師の75%が国民健康保険に入っています.国民健康保険料 (税) の平均は年27.5万円 (平均年収の9.6%) です.国民年金保険料もほとんどの人が払っています.年159,600円の国民年金保険料は,平均年収5.6%に相当します.一般に,厚生年金・健康保険の場合,保険料の労働者負担分は,両者を合わせて報酬の10.89% (健康保険4.5%+厚生年金6.79%) であり,厚生年金に入れば国民年金よりも受け取る年金額が多くなります.したがって87%の人が,私学共済や厚生年金・健康保険に入れるようになれば入りたいと思っています.

授業・研究関連の出費 (29万円),国民健康保険料 (27.5万円),国民年金保険料 (16万円)を合計すると,72.5万円となり,これは,平均年収の25%に相当します.育英会の奨学金の返済に困っているという声も自由記述に寄せられています.専任になれば育英会の奨学金の返済は免除になりますが,専業非常勤講師は少ない収入の中から返済しなくてはいけません.

翌年度の契約の打診は,早くて10月遅くて12月に行われる場合が多く,打診が遅くなると雇い止めが心配です.実際,専業非常勤講師の48%に雇い止めの経験があります.科目がなくなったり,開講コマ数が減ったり,他の人に譲らされたりして職を失っています.理由がわからずに雇い止めにされた経験のある人も少なからずいます.

このような劣悪な労働条件で,専任教員 (任期に定めのない) になることを希望する人は75%いますが,任期の定めのある (任期制の) ものであっても希望するという人は35%です.

専業非常勤講師で,大学非常勤講師の労働・教学条件に不満がある人は89%です.最も不満な点を3つ選んでもらったところ,大半の人が3つの中に「賃金が低い」「雇用が不安定」の2つを入れています.他に「健康保険・年金がついていない」「研究者として扱われていない」を3つの中に入れた人がそれぞれ4割ほどいました.

近年注目されつつあるアカハラ (アカデミックハラスメント,大学内でのいじめ,いやがらせ等,セクハラを含む) ですが,アカハラの被害にあったことのある専業非常勤講師は34%です.加害者のトップは,やはり「(元) 指導教員」で,内容は「非常勤講師職の採用・雇用・仕事に関係するもの」が46%,「研究に関係するもの」が36%,「専任職の採用・雇用・仕事に関係するもの」が31%です.


目次
サマリー
目次
冊子版の正誤表
マスコミの反響
刊行にあたって
データに基づく迫力の追求を
パートタイム労働者として
非常勤問題を通じたネットワークの拡大
実施の経過と集計の方法
1 回答者の構成
1.1 大学教員の分類と定義
1.2 性別,国籍,年齢
1.3 地域
1.4 世帯
2 働き方
2.1 専門分野,担当科目
2.2 年数,校数
2.3 担当コマ数,勤務時間
2.4 受講生数
2.5 通勤,授業準備,試験採点時間
3 収入,支出
3.1 年収
3.2 賃金形態
3.3 賃金単価
3.4 授業・研究関連の支出
4 健康保険,年金
5 雇用問題
5.1 打診の時期
5.2 雇い止め経験
5.3 専任化の希望
6 全般
6.1 不満点
6.2 アカハラ
7 自由記述
賃金
日本育英会奨学金返済
研究費
科研費
雇い止めやコマ減などの体験,雇用不安
健康保険,年金,雇用保険
産休
有給休暇
健康診断
ハラスメント
専任等採用決定方法,公募
専任教員に伝えたいこと
専任が他大学で非常勤をすること
大学当局・事務に伝えたいこと
授業評価アンケート
クラス規模
学力低下とその対策
教える側の問題
教育,大学問題
研究問題
非常勤問題全般
文科省・厚労省へ (調査) (兼職) (大学院重点化) (その他)
非常勤組合へ (応援・感謝) (提案) (加入したいが...) (批判) (その他)
今回のアンケートについて (評価,感謝) (問題,提案) (その他)
付録
アンケート用紙
私立大学等への経常費助成の仕組み
設置機関別に見た非常勤講師の数と比率
大学,短大の教員数の変遷
国立大学における非常勤講師の給与
丸子警報器事件判決の意義
連絡先

冊子版の正誤表
冊子版の誤りです.Web版は訂正済みです.

p.36
誤:労働者負担分は,両者を合わせて報酬の10.89% (健康保険4.5%+厚生年金6.79%)
正:労働者負担分は,両者を合わせて報酬の10.89% (健康保険4.1%+厚生年金6.79%)

裏表紙
誤:郵便振替口座 「京滋地区私立大学非常勤講師組合」 010
正:郵便振替口座 「京滋地区私立大学非常勤講師組合」 01020-7-24880


マスコミの反響
連合通信隔日版 (2003/5/24) 非常勤講師の年収287万円 全国の大学で初の実態調査 半数が雇い止め経験あり (中間報告に関して)
しんぶん赤旗 (2003/7/21)
神戸新聞 (2003/08/03) 非常勤講師の苦しい生活 阪神圏大学労組が調査
毎日新聞 (2003/8/18) 非常勤講師、3割が年収200万円以下 労組調査
読売新聞 (2003/8/18) 非常勤講師はつらいよ 労組が大学の実態調査
京都新聞 (2003/8/22) 大学非常勤講師の平均年収290万円 経営合理化でしわ寄せ
連合通信隔日版 (2003/8/23) 平均は年収287万円 大学非常勤講師初の全国アンケート 不安定な雇用も心配
サンテレビ「ジャーナル」(2003/9/7朝) 「大学非常勤講師の実態」

サマリーと目次   1 回答者の構成  2 働き方  3 収入支出  4 健康保険,年金  5 雇用問題  6 全般  自由記述  付録