しかしながら,非常勤講師の労働実態はあいかわらず全く把握されていません.例えば,文科省の『学校教員統計調査報告書』や『学校基本調査報告書』 といった統計データの中の非常勤講師の人数は延べ人数であるため,3校に勤務していれば3人と数えられており,兼職状況は調査の対象となっていません.つまり人数すらわかっていないのです.参考までに,文科省の調査 『学校教員統計調査報告書』(2001年度) (p.99参照) によれば,全国の専業非常勤講師は大学と短大を合わせて延べ66,813人ですが,今回の調査の平均勤務校数2.7校で割れば,全国に約25,000人の専業非常勤講師がいると推測されます.
私たちは文科省に対して大学非常勤講師の実態調査を行うよう再三要求していますが,はかばかしい回答はありません.そこでこのたび首都圏,阪神圏,京滋地区の非常勤講師3組合が共同で調査を行いました.これは大学教員の底辺に位置する労働者が,自らの手で自らの実態と声を集めたデータです.以下にアンケートの結果から見える専業非常勤講師の「平均像」をまとめました.
現在大学の教員が,常勤,非常勤,任期のあるなし,年俸制など多様であると同じように,非常勤講師の実態もまた多様です.平均からは見えてこない実態や声もありますので,平均以外のデータは本文を,また生の声は自由記述をご覧ください.この「多様化」の時代,それぞれの実態を把握した上で,違いを乗り越えた連帯が必要です.このデータを運動に生かし,共に進みましょう.
専業非常勤講師の57%が女性で,43%が男性,平均年齢は42.4歳です.
専業非常勤講師の60%は語学を担当していて,52%は講義を担当しています (一部重複).
専業非常勤講師の経験年数の平均は10.3年,平均2.7校を掛け持ちしています.
専業非常勤講師の担当コマ数の平均は,大学非常勤のみを仕事にしている人では9.1コマ,予備校等他に兼職のある人では,大学で5.1コマ,大学外の教育職で2.2コマ,教育職以外の労働時間が平均5.7時間です.
授業9.1コマは,それだけなら週13.7時間の労働ですが (1コマ1.5時間),授業をするためには,準備や後片付けも必要です.専業非常勤講師が1回の授業の前後に使っている時間の平均は3.2時間です.それを入れて計算すると,週9.1コマは週42.8時間労働となります.
試験の時期には更に時間が必要です.専業非常勤講師は試験の作成のために平均3.6時間,採点のために平均5.9時間費やしています.9.1コマ担当だと,試験の前後には,合計86.5時間の労働が上記とは別に必要となります.
専業非常勤講師の年収平均は287万円で,48%の人が年収250万円以下,34%の人が200万円以下です.その少ない収入の中から,本や機材の購入費,学会や研究会,研修への参加費や旅費などは,ほとんどすべて自前です.専業非常勤講師は平均29万円 (平均年収の10.1%) を授業・研究関連で出費しており,それに対する公費はほとんどあるいは全く出ていません.
専業非常勤講師の75%が国民健康保険に入っています.国民健康保険料 (税) の平均は年27.5万円 (平均年収の9.6%) です.国民年金保険料もほとんどの人が払っています.年159,600円の国民年金保険料は,平均年収5.6%に相当します.一般に,厚生年金・健康保険の場合,保険料の労働者負担分は,両者を合わせて報酬の10.89% (健康保険4.5%+厚生年金6.79%) であり,厚生年金に入れば国民年金よりも受け取る年金額が多くなります.したがって87%の人が,私学共済や厚生年金・健康保険に入れるようになれば入りたいと思っています.
授業・研究関連の出費 (29万円),国民健康保険料 (27.5万円),国民年金保険料 (16万円)を合計すると,72.5万円となり,これは,平均年収の25%に相当します.育英会の奨学金の返済に困っているという声も自由記述に寄せられています.専任になれば育英会の奨学金の返済は免除になりますが,専業非常勤講師は少ない収入の中から返済しなくてはいけません.
翌年度の契約の打診は,早くて10月遅くて12月に行われる場合が多く,打診が遅くなると雇い止めが心配です.実際,専業非常勤講師の48%に雇い止めの経験があります.科目がなくなったり,開講コマ数が減ったり,他の人に譲らされたりして職を失っています.理由がわからずに雇い止めにされた経験のある人も少なからずいます.
このような劣悪な労働条件で,専任教員 (任期に定めのない) になることを希望する人は75%いますが,任期の定めのある (任期制の) ものであっても希望するという人は35%です.
専業非常勤講師で,大学非常勤講師の労働・教学条件に不満がある人は89%です.最も不満な点を3つ選んでもらったところ,大半の人が3つの中に「賃金が低い」「雇用が不安定」の2つを入れています.他に「健康保険・年金がついていない」「研究者として扱われていない」を3つの中に入れた人がそれぞれ4割ほどいました.
近年注目されつつあるアカハラ (アカデミックハラスメント,大学内でのいじめ,いやがらせ等,セクハラを含む) ですが,アカハラの被害にあったことのある専業非常勤講師は34%です.加害者のトップは,やはり「(元) 指導教員」で,内容は「非常勤講師職の採用・雇用・仕事に関係するもの」が46%,「研究に関係するもの」が36%,「専任職の採用・雇用・仕事に関係するもの」が31%です.
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誤:労働者負担分は,両者を合わせて報酬の10.89% (健康保険4.5%+厚生年金6.79%)
正:労働者負担分は,両者を合わせて報酬の10.89% (健康保険4.1%+厚生年金6.79%)
裏表紙
誤:郵便振替口座 「京滋地区私立大学非常勤講師組合」 010
正:郵便振替口座 「京滋地区私立大学非常勤講師組合」 01020-7-24880