V 社会保障・福利厚生
1) 専業非常勤講師の社会保険加入状況
2) 民間などの保険への加入状況
3) 健康状態
4) 私学共済、賃金・雇用保障のある休暇を求める切実な叫び

1) 専業非常勤講師の社会保険加入状況
 専任教員であるならば、私学共済や、公立学校共済などにはいることができますし、また、一般のサラリーマンならば、厚生年金・健康保険に入ることができます。雇用されているものは、パートタイマーでも厚生年金・健康保険にはいれます。しかし、私立大学でも国公立大学でも専業非常勤講師であれば、どちらからも排除されています。ごくわずかな大学が、その大学で専任並にコマ数の多い非常勤講師に私学共済加入を認めています。
 このような状況ですから、専業非常勤講師は、社会保険に入ろうとすれば、雇用主が掛け金の5〜6割の負担をする上記の保険には入られず、掛け金がまるまる自己負担となる、自営業者などがはいる国民年金・国民健康保険にはいらざるをえません。そうなると、高額になるので、入れない人もでてきます。
 表V-1、図V-1にあるように、専業非常勤講師では、80%が国民年金・国民健康保険に入っていますが、いずれの社会保険にも入ってない人が13%います。被扶養家族も2%います。被扶養家族である人が少ないのは、収入が1大学あたりでは少なくてもコマのある全大学を合わせると多く、社会保険の被扶養家族の条件をはずれる場合が多いからです。

表V-1 専業非常勤講師の社会保険加入状況(単位:人)
国民年金・国民健康保険113
私学共済5
被扶養家族3
いずれにも未加入18
合計139

図V-1 専業非常勤講師の社会保険加入状況
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注) 回答146中、あきらかに間違いとおもわれるものを除いて139を有効回答とした。有効回答中でも、私学共済は、5回答あったが、関西では、私学共済加入を認められている大学は電気通信大学のみであるから、多く表示されており、誤記入をふくむ可能性もある。

 次に国民年金・国民健康保険に月どのくらい保険料を払っているかを見てみましょう。
 国民年金・国民健康保険加入の専業非常勤講師113名の中で明らかに不正確とみなされる回答を除く、56名を有効回答としました。月額掛け金は、国民年金では、一律13,300円 (2000年度) ですが、国民健康保険では居住地域と収入額によって高い低いがあり平均すると37,286円です。そうすると、国民年金と国民健康保険の両者あわせると、社会保険の掛け金は、月額50,586円となります。これは、およそ非常勤講師の賃金の、2コマ分に相当します。
 国民年金・国民健康保険にかろうじて入っていても、いざ給付となると少なく、国民年金では40年目一杯かけても、月額67,000円ほどです。非常勤講師は、収入のない学生・院生時代が長くその時代はかけてない人も多いので、加入年数40年の人は、ほとんど存在せず、給付月額はもっと少なくなるでしょう。普通の大会社にある企業年金もありません。また非常勤講師は、入院や手術のときは雇い止めになり、収入がきれる可能性も高いので、乏しい所得のなかから民間の保険に入るひとも6割強います。

2) 民間などの保険への加入状況
表V-2は、民間や郵便局等の保険に入っている状況を常勤職のある人と合わせてみたものです。社会保険加入と同様、加入していない人が専業非常勤講師では37%あります。常勤職のある人では、加入してないのは18%です。推察が付くように、加入している人の中での掛け金は、常勤職のある人では、月額平均42,414円で、専業非常勤講師では月額平均23,544円となり、専業非常勤講師の方が低くなっています。それでも収入の1コマ分弱にあたいするのです。
 このように、総じて、社会保険の掛け金は平均2コマ分、民間などの保険は平均1コマ分に価するのですから、国民健康保険のみは、収入に応じた掛け金とはいえ、家計を圧迫することは確かです。

表V-2 民間保険などの加入状況(単位:人、%、円)
 専業非常勤講師定年後型常勤職あり
加入していない5036.8%420.0%1418.4%
民間生保系4633.8%1050.0%4457.9%
郵便局簡易保険4029.4%735.0%2532.9%
地方自治体管轄共済53.7%15.0%33.9%
民間非営利団体共済2014.7%315.0%1215.8%
有効回答者数136人20人76人
加入者の平均掛け金月額23,544円23,638円42,414円
注) 複数回答のため、各項目の合計は回答者数とは合わない。

3) 健康状態
 健康状態をみると、「定年後型」の年齢が高いので、健康に不安を抱いている人の割合が多いのは別にしても、専業非常勤のみが突出して不安である人が多いわけではありません。5人に1人が「現に不調」「不安がある」と答え、それに「良好だが少し不安」を加えると,専業非常勤で約7割、専任で約6割になり、専業非常勤のほうが少し高くなります。この同じようなあまりいいとはいえない健康状態の中で、異なるのは、その保障です。専業非常勤講師では、社会保険が先に見たように雇用されているものとは扱われていないだけでなく、病気や出産・育児に対する賃金も休暇も保障されず、雇用そのものが失われるということです。次にその切実な声を聞いてみましょう。

図V-2 健康状態
5_02a 5_02b 5_02c
専業非常勤定年後型常勤職あり

4) 私学共済、賃金・雇用保障のある休暇を求める切実な叫び
 社会保険の整備、私学共済への加入、雇用保障のある各種の休暇は、切実な叫びとして、上がっています。福利・厚生に関する自由記入欄から、抜き出してみましょう。
 多くの記入のうち、なんといっても最大は、社会保険において被雇用者 (雇われているもの) として扱われていないという不満、それはとりもなおさず、私学共済へ加入させて欲しいという要望です。専業非常勤講師では、記入者73名のうち、44名を占めています。ある語学の専業非常勤は、「私学共済、社会保障、健康診断、産休・育休、介護休暇、病気休暇、保養施設、趣味の補助、など全部必要だと思うが、とくに私学共済に加入できるようにして欲しい。以前、一時国保に加入していたが月々の保険料がひどく高くて、年収360万円を少し超えただけで年間45万円となり、どうしても払えず現在は加入していない。もちろん再加入できるけれども、2年分さかのぼって払うなんてできない。ちょっとやそっとのことでは、医者にはかかれません。こんなにものすごく働いていて、保険もなく、やめても失業手当もなく、病休、産休、育休もない仕事なんて他にないでしょう。」と述べています。
 この記述にもあるように、次に切実な声は産休、育休、職場復帰の問題です。
子どもを産み育てようと思うと、うまく休暇中に合わせて授業を休まなくてもよいという状態でないかぎり、雇い止めになります。実態の多くは、雇用は保障されていなく、職場復帰はできません。復帰できれば、ラッキーとしか言いようがありません。40歳台の女性の専業非常勤講師は自分の経験から、以下のように述べています。「出産時には非常勤をことわらざるをえないので、産休、育休がとれるようになることを希望します。専任の産休は非常勤で代替することができるが、非常勤が年度途中で休む場合は、代替は取れないと大学からいわれた。出産後、仕事に復帰したくても、その保障はない。去年出産したが、非常勤が決まるまで不安だった。幸い8コマは担当できたが、第1子のときの経験から不安で、第2子を作ることに相当躊躇した。」同様に切実な声は30歳台の女性からも、あがっています。「今、子どもが3歳ですが、2人目の子どもは無理な状態です。というのは、産休、育休が取れそうになく、一旦コマ数を減らせば、元に戻れないだろうからです。わたしは、帝王切開が必要なので、産後すぐ復帰というわけにはいかず、出産のため半年、最低3ヵ月だけでも休める制度があるとよいのですが。」
 休むと、次の雇用の保障がない、という点では、病気休暇もおなじです。40歳台後半の男性専業非常勤講師は、「病気になったときの有給休暇が欲しいです。健康を失えば、その時点で生活が成り立たない現状では、健康保険に加入したところで生きていけないから、今現在健康保険に加入してません。医療費が免除されたところで、生活できないからです。この点で、人間らしい最低の生活が出来そうだと思える環境が欲しいです。」といってます。このように、最高学府を出て、最高学府に勤めている人が、せめて最低の保障を… と叫んでいることは、おおよそ、授業を受けている学生も高い学費を払っている父母もほとんど知らない現実なのです。
 京都の有名な私学である同志社大学でさえ、非常勤講師の病気休暇の規定がないというのが実態です。規定を求めた労働組合の交渉では、そのつど対処すると回答していますが、その回答では実際事が起きてからしかわからず、保障されていないと同じことです。私学共済加入については、どの大学も他大学がやらないとむずかしい、ひとりの非常勤講師が複数の大学で働いているので事務的に対応できないと、組合からの度重なる要求に対し毎年進歩のない同じ回答を繰り返すのみです。
 社会保険 (私学共済加入)、病気休暇、産休・育休は、非常勤講師の福利厚生に関する3大悲願要求となっているのです。京滋非常勤組合が作成した、4大私学の教学・労働諸条件一欄表をご覧下さい (巻末「資料」)。

「専業非常勤講師」
=「大学非常勤のみの人」大学での非常勤講師だけを仕事としている人
+「予備校等兼職」大学非常勤以外に、予備校、専門学校、高校、塾等で非常勤の仕事を持っている人

「定年後型」
= 大学等を定年退職した後に、大学での非常勤講師をやっている人

「常勤職のある人」
=「大学専任」大学での専任教員をしていて、大学での非常勤講師もやっている人
+「大学外常勤」大学以外での常勤の仕事 (ジャーナリスト・弁護士等) があり、大学での非常勤講師もやっている人