IV 収入支出
1) 収入
2) 支出 (生活関連支出)
3) 支出 (研究教育関係)
4) 研究費・授業補助費についての記述回答
5) 生活実感

1) 収入
まず、年収を見てみましょう。平均年収は「大学専任」が903万円、「大学外常勤」が778万円、「大学非常勤のみの人」が263万円、「予備校等兼職」が294万円、「定年後型」が414万円となっています。図IV-1は年齢層ごとの平均収入をグラフにしたものです。年齢層にかかわらず常勤職のある人とない人で平均年収が大きく違うことがよくわかります。
 常勤職のある人とない人にわけて勤務形態別に内訳をみたのが、図IV-2です。「常勤職のある人」では、9割以上の人が年収400万円以上で、最も人数が多いのが1000万円以上 (回答者88人のうち32人) でした。一方「専業非常勤講師」では、85%の人が年収400万円以下、5割以上の人が年収250万円以下となっています。「専業非常勤講師」で、比較的高収入の人をみてみますと、大学非常勤のみの人で、週20コマという殺人的な量の仕事をこなして650-700万円の年収、あるいは大学以外(予備校など)と合わせて週22コマで年収500-550万円の年収といった人がいます。「定年後型」では、平均週コマ数は少ないのですが、非常勤以外の収入がある人が多いため (年収の内の非常勤講師給の占める割合が平均で30%) 専業非常勤講師よりも年収が高くなっています。
 いずれにせよ、このグラフをみれば、常勤職のある人と専業非常勤講師の間の年収格差はあきらかです。
 個人収入の内の非常勤講師給の占める割合は、常勤職のある人が平均約10%、大学非常勤のみの人が平均約90%、定年後型が平均約30%となっていました (予備校等兼職では「非常勤講師給」に、大学以外の非常勤教育職の収入を入れた人と、入れなかった人がいたため割合はよくわかりません) 。
 なお、専業非常勤講師の平均年収が低いのは、コマ数が少ない人もいるからだろうと思う人もいるかもしれませんが、大学非常勤のみの人の平均の週コマ数は8.6コマで、専任の平均8.3コマ (専任校で平均5.6コマ+ 非常勤で平均2.8コマ) を上回っています (詳しくは「II非常勤講師の働き方」をごらん下さい)。平均年収が低いのは、ひとえに単価が安いからです。平均的な大学非常勤のみの人の姿は、コマ当たり月給25000円 (年30万円)で、週9コマで年収270万円といったところでしょうか。

図IV-1 年齢別平均年収
全年齢の平均年収:大学専任903万円/大学外常勤 778万円/大学非常勤のみの人 263万円/予備校等兼職 294万円/定年後型414万円
4_01

図IV-2 年収
4_02a 4_02b 4_02c
専業非常勤定年後型常勤職あり

2) 支出 (生活関連支出)
支出の方は、生活関連の経費と、研究教育関係の経費にわけてアンケートをとりました。
 まず生活関連では、世帯当たりの光熱・通信・食費の合計の平均が、「専業非常勤講師」で月11.6万円、「定年後型」で月12.3万円、「常勤職のある人」で月15.2万円、住居費 (家賃やローン) は、「専業非常勤講師」で月7.7万円、「定年後型」で月4.1万円、「常勤職のある人」で月9.6万円となっています (表IV-1)。
 ただし、正確に自分の世帯の支出を把握していない場合が多いであろうこと、単位等の間違いがかなりあったこと、一部空欄のもの、何かの間違いと思われるデータ (光熱費と通信費と食費がすべて月に5万円など) もあり、明白な単位の間違いは訂正しましたが、不明な点も多いので、残念ながらあまり正確なデータとはいえません。また「食費」に外食費を入れるのかどうか等、設問が不明なところもありました(数値から見ると外食費を食費に入れている人と入れていない人がいるように思えました)。
 いずれにせよ、専業非常勤講師と常勤職のある人で生活費の支出にはそれほど大きな違いはありませんが、平均年収が約3倍違うことを考えると、常勤職のない人の場合、生活費が収入の中に占める割合がかなり高くなります。

表IV-1 生活関連支出の平均
 専業非常勤定年後型常勤職あり
世帯当たりの光熱・通信・食費11.6万円12.3万円15.2万円
世帯当たりの住居費7.7万円4.1万円9.6万円

3) 支出 (研究教育関係)
 研究教育関係の出費に関する設問は「授業のための研究・教材・機器費」「教育のための学生との交際費」「書籍費」「コピー、印刷費」「学会研究会等旅費」「調査費用」「海外留学費」「その他」と8項目に別れていましたが、家で使うパソコンの購入費はここに入るのか、入れるとすればどの項目に入るのか、書籍費やコピー費のうち「授業のため」のものはどこに入れるのか、「授業のため」とはどういう意味なのか、といった判断が回答者にまかせられており、自分の出費をどの程度把握しているかどうかを含めて、回答が困難であったと思われますし、データとしても曖昧な点が残ります。
 それをあえて集計しますと、上記8項目を合計した出費の年額平均は、「専業非常勤講師」が40万円、「定年後型」が、41.9万円、「常勤職のある人」が120.6万円となっています。図IV-3は、その分布を表しています。「専業非常勤講師」では年額10万円台が最も多いものの、20万円台、30万円台の人がそれぞれ19人います。「常勤職のある人」では100万円以上の出費の人が25人以上います。
 このうち少しでも公費が出た人の平均額は、「専業非常勤講師」で年8.8万円、「定年後型」で年10.2万円、「常勤職のある人」で年71.1万円となっています (表IV-2、図IV-4)。73人の「専業非常勤講師」に公費が出ていて、平均値が8.8万円というのは多いように見えますが、実は半数以上の38人が年2.5万円以下で、年10万円より多いのはたった14人で、一部の人が平均値を引き上げているのが実態です。常勤職のある人では、公費が出たと回答した63人のうち、50人が年10万円以上です 。
 専業非常勤講師では、現実上全くあるいはほとんど公費が出ていない人がほとんどですが、それでも多くの人がかなりの出費をしています。更に、この場合も生活関連の出費と同じく、年収の違いを考慮に入れると、非常勤の場合このような研究・教育関連の出費が収入の中に占める割合はかなり大きいものとなります。
 なおここで「大学外常勤」の出費および公費支出は「大学専任」よりも「専業非常勤講師」に近い分布となっているのですが、統計の都合上「常勤職のある人」にまとめてあります。
表IV-2 研究・教育関係諸経費と公費支出 (年額: 単位 人、万円)
 専業非常勤定年後型常勤職あり
少しでも出費したと回答した人数128人23人76人
出費平均 (年額)40.0万円41.9万円120.6万円
少しでも公費の出た人数73人11人63人
公費平均 (年額)8.8万円10.2万円71.1万円

図IV-3 研究・教育関係諸経費(年額)
4_03

図IV-4 公費額(年額)
4_04

4) 研究費・授業補助費についての記述回答
 研究費・授業補助費についての記述回答では、せめて授業補助費を出して欲しいという声が最も多く寄せられました。
 何万円もするビデオテープ教材から、授業で使うダンス用のCD、スライド・ビデオの製作、スライドのデジタル化費用、生テープ代やファイルなどの文房具まで、非常勤講師ではほぼすべて自前が現状です。配布資料用のコピーや印刷は自由にできる場合がほとんどのようですが、その元の本自体は自腹を切って買わなくてはいけません (中には配布用のコピーすら自己負担しているという人もいました)。また、高価な教材 (ビデオ・CD-ROM等) を大学で購入してもらえない場合は、たとえそれが良いものであっても、使用をあきらめざるを得ないという意見もありました。
 私たちは、良い授業をするために、少ない給料の中からやりくりして、本・CD・ビデオを買い、資料をあつめ、教材を用意しています。資料を集めれば集めるほど、良い授業をと工夫を重ねれば重ねるほど収入が少なくなっていくというこの矛盾。大学もまさか工夫なんかしなくてもいいよ、と思っているわけでもないでしょう。せめて授業補助費をというのは実に小さな要求ではありますが、切実な声です (なお、京都産業大学では、ビデオテープ・カセットテープ・フロッピーディスク・MDに関しては非常勤講師にも支給されています)。授業関係では、他に、パソコン・ビデオ・プリンター・MD録音再生機などの機材購入のための補助を希望する声もありました。
「非常勤にも書籍費くらいは支給してもらいたい。自分でも自覚しないうちにかなりの授業関連の出費があるので、是非授業補助費をお願いしたい。」
「研修費も授業に関する書籍の購入費もまるで出ない。これを出して欲しい」
「少なくとも"授業準備用"であることが明らかな書籍くらいは公費で負担してほしい」
「せめて、1コマ年間1万円くらいでも授業費として出れば」
「授業のための資料・教材費に関し、常勤には公費が支給され非常勤にはされないので大変不満」
 研究費に関しては「授業以外の研究用のコピー代補助」「せめて学会旅費が出れば」「論文を出すのにかかった費用の一部負担をしてほしい」といった意見が多くあるなか、「研究費がほしいのは当然であるが、まあ無理でしょう」「研究費は、ほとんど雲の上の話」といったあきらめの声も見られました。また、研究費を持つ大学専任からは、海外調査費用を別枠でほしい、全体的に年額の研究費が少なすぎる、手続きの簡素化、教育・教材費は研究費とは別に支給すべき、などの意見がありました。
5) 生活実感
最後に、経済生活に対する実感を聞いた質問には、定年後型と常勤職のある人では、「普通」と答えた人が過半数でしたが、専業非常勤講師では、「やや苦しい」と「大変苦しい」を合わせた数が64%にも上っており、非常勤講師の生活の苦しさを窺わせています (図IV-5)。
図IV-5 経済生活に対する実感
4_05a 4_05b 4_05c
専業非常勤定年後型常勤職あり

「専業非常勤講師」
=「大学非常勤のみの人」大学での非常勤講師だけを仕事としている人
+「予備校等兼職」大学非常勤以外に、予備校、専門学校、高校、塾等で非常勤の仕事を持っている人

「定年後型」
= 大学等を定年退職した後に、大学での非常勤講師をやっている人

「常勤職のある人」
=「大学専任」大学での専任教員をしていて、大学での非常勤講師もやっている人
+「大学外常勤」大学以外での常勤の仕事 (ジャーナリスト・弁護士等) があり、大学での非常勤講師もやっている人