図III-1 世帯構成
専業非常勤 | 定年後型 | 常勤職あり |
表III-1 40歳以下の人数 (単位:人,%)
40歳以下の人数 | 総数 | 40歳以下の% | |
---|---|---|---|
専業非常勤 | 59 | 155 | 38.1% |
常勤職あり | 25 | 93 | 26.9% |
さらに詳しくみていくために、この40歳以下の人のデータに男女のバイアス (「専業非常勤」:男27・女30) (「常勤職あり」:男19・女5) をかけてみましょう。表III-2を参照してください。これら4つの集団での「独居・独身」率は次のようになっています。「専業非常勤」男性33.3%、 (同) 女性50%、「常勤職あり」男性10.5%、「同」女性60%。「常勤職あり」の女性のサンプル数が少ないという問題もありますが、単純比較では、「常勤職あり」では断然、「専業非常勤」でも1.5倍と女性の方が男性より「独居・独身」の割合が高くなっています。そこで女性の割合が多い「専業非常勤」の方が「常勤職あり」より「独居・独身」の率が高くなるのだといえるでしょう。そして、男性で比較した場合でも、「専業非常勤」の「独居・独身」率は「常勤職あり」の3倍もあります。
このほかに「専業非常勤」の世帯構成で注目されることは、「配偶者・パートナーとの二人暮らし」と「子どものいる暮らし」のライフ・スタイルの選択についてです。アンケートでは、男女を問わず、ほぼ40歳をさかいにして、「配偶者・パートナーとの二人暮らし」をする人と「子どものいる暮らし」をする人との比率が次のように逆転します。男性の場合71%:29%から20%:80%へ、女性の場合60%:40%から18%・82%へ。このライフ・スタイルの転換は、単純には女性の出産の身体的負担が40歳を越えるとますます大きくなるという問題にかかわっていると考えられますが、女性の「専業非常勤」の場合にはこれに加えて、40歳までは子どものいる生活よりも専任職に就くことを優先するために出産しないという選択をしている人がいるということもあると考えられます。それは、ただでさえ女性ということで採用において差別されるのに、子どもがいればなおさら不利であるというのが現実だからです。「VII 雇用 8) 性別による問題」をご覧下さい。ちなみに、常勤職のある男性の場合では、40歳以下であろうとそれ以上であろうと、「配偶者・パートナーと二人暮らし」と「子どものいる暮らし」の比率はさほど変化はなく、ほぼ1:3の割合になっています。
表III-2 世帯の構成 (男女年齢別)
常勤職のある人 | 専業非常勤講師 | |||||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
男 | 女 | 男女合計 | 男 | 女 | 男女合計 | |||||||||
40才以下 | 41才以上 | 合計 | 40才以下 | 41才以上 | 合計 | 40才以下 | 41才以上 | 合計 | 40才以下 | 41才以上 | 合計 | |||
独居 | 1 | 1 | 2 | 3 | 1 | 4 | 6 | 6 | 3 | 9 | 7 | 7 | 14 | 23 |
独身+親 | 1 | 1 | 2 | 0 | 1 | 1 | 3 | 3 | 3 | 6 | 8 | 9 | 17 | 23 |
配偶者のみ | 4 | 14 | 18 | 0 | 1 | 1 | 19 | 12 | 6 | 18 | 9 | 6 | 15 | 33 |
配偶者と子 | 12 | 34 | 46 | 2 | 3 | 5 | 51 | 4 | 20 | 24 | 4 | 22 | 26 | 50 |
配偶者と親 (と子) | 1 | 5 | 6 | 0 | 0 | 0 | 6 | 1 | 4 | 5 | 2 | 5 | 7 | 12 |
その他 | 0 | 3 | 3 | 0 | 1 | 1 | 4 | 1 | 1 | 2 | 0 | 8 | 8 | 10 |
合計 | 19 | 58 | 77 | 5 | 7 | 12 | 89 | 27 | 37 | 64 | 30 | 57 | 87 | 151 |
表III-3 週あたり家事労働時間 (単位:時間,人)
0を含む平均 | 人数 | 0を含まない平均 | 人数 | ||
---|---|---|---|---|---|
常勤職あり | 男 | 3.5 | 77人 | 5.5 | 49人 |
女 | 16.2 | 13人 | 16.2 | 13人 | |
定年後型 | 男 | 3.5 | 25人 | 4.8 | 18人 |
女 | 30.0 | 1人 | 30.0 | 1人 | |
専業非常勤 | 男 | 8.5 | 59人 | 10.4 | 48人 |
女 | 17.1 | 86人 | 17.1 | 86人 |
表III-4 週あたりの育児時間 (単位:時間,人)
0を含む平均 | 人数 | 0を含まない平均 | 人数 | ||
---|---|---|---|---|---|
常勤職あり | 男 | 1.4 | 77 | 9.3 | 12 |
女 | 4.8 | 13 | 20.7 | 3 | |
定年後型 | 男 | 0.0 | 25 | 0.0 | 0 |
女 | 0.0 | 1 | 0.0 | 0 | |
専業非常勤 | 男 | 1.6 | 59 | 7.8 | 12 |
女 | 3.0 | 86 | 17.3 | 15 |
表III-5 週あたりの介護時間 (単位:時間,人)
0を含む平均 | 人数 | 0を含まない平均 | 人数 | ||
---|---|---|---|---|---|
常勤職あり | 男 | 0.0 | 77 | 0.9 | 4 |
女 | 0.8 | 13 | 10.0 | 1 | |
定年後型 | 男 | 0.3 | 25 | 0.0 | 2 |
女 | 0.0 | 1 | 0.0 | 0 | |
専業非常勤 | 男 | 0.4 | 59 | 5.9 | 4 |
女 | 1.0 | 86 | 7.3 | 12 |
授業の準備にかける時間が以上のような実態であることに対して、それぞれの非常勤講師は次のように自己評価しています (図III-3) 。肯定的評価が高いのは「定年後型」で、「まあまあ足りている」と「充分」とで回答者の81.5%を占めています。「専業非常勤」の場合は、「まあまあ足りている」や「充分」と肯定的にとらえる人が49.7%、「かなり不足」や「ひどく不足」と否定的にとらえる人が50.3%となっています。そして、「常勤職あり」が納得度がほかより低く、「かなり不足+ひどく不足」が58.2%、「まあまあ足りている+充分」が41.8%となっています。
図III-3 授業準備時間
専業非常勤 | 定年後型 | 常勤職あり |
試験の準備にかける時間は (図III-4) 、「専業非常勤」では、1〜2時間かける人が最も多くて25.2%、ついで2〜3時間かける人17.4%となっています。これに対して、「常勤職あり」では、1時間以内の人が最も多くて33.3%、ついで1〜2時間かける人23.7%となっており、「定年後型」は、1〜2時間かける人31%、1時間以内の人が20.7%の順になっています。
図III-4 一回の定期試験作成のために使う時間
試験の採点にかかる時間は、図III-5に示されているように、2時間程度の人から10時間以上かかる人まで幅広く分布しています。主として受講生数の相違が反映しているものと考えられます。「専業非常勤」は、2〜4時間かかる人20%、ついで2時間以内の人18.7%が多く、長時間かかる場合では、10〜20時間かかる人11.6%、ついで8〜10時間かかる人9.7%との順になっています。「常勤職あり」の場合は、8時間以内では2〜4時間かかる人が最も多くて23.7%、長時間の場合は8〜10時間かかる人が多く16.1%となっています。そして、「定年後型」は、4〜6時間かかる人20.7%、長時間の場合で10〜20時間かかる人20.7%が多くなっています。
図III-5 一回の定期試験またはレポートの採点のために使う時間
非常勤講師が授業のための準備や試験の準備と採点など出講以外に以上のような時間をさいている実態をどのように「労働」として賃金評価させていくのかは私たちの課題です。例えば、現在でも受講生の多い授業に対してはその試験に際していくらかの「手当て」が支給されています (巻末資料 4大私学の教学・労働諸条件一欄表をご覧下さい) 。試験の採点に30時間かかっているということは、1日8時間として4日も採点作業をしているということになりますが、実際これに見合った「手当て」が支給されていません。「専業非常勤」がよりよい授業をしようと授業や教材の改善にとりくむ姿勢は、図III-6のように「常勤職あり」の人たちとなんら変わりありません。こうした私たちの教育者としての努力をただ働きとして放置せずに労働時間として換算し、賃金ないし手当てとして評価することが求められています。
図III-6 授業・教材の改善の長期的努力
専業非常勤 | 定年後型 | 常勤職あり |
図III-8 週あたり研究時間 (休暇期間中)
平均値:専業非常勤 21時間/定年後型 12.2時間/常勤職あり26.2時間
以上のような研究時間数をそれぞれの非常勤講師はどのように自己評価しているのでしょうか。研究時間に対する満足度を次にみてみましょう。
図III-9が示すように、自分の研究時間に対して「定年後型」では、「充分」と「まあまあ足りている」と回答した人が75%占め、高い満足度となっています。しかしながら、「専業非常勤」と「常勤職あり」ではこれとは逆に「ひどく不足」と「かなり不足」を選択した人が多くを占めています。「ひどく不足」と「かなり不足」と答えた人の合計は、「専業非常勤」で77.8%、「常勤職あり」で71.1%と回答者の7〜8割にもなります。また、「ひどく不足」と答えた人の割合でみると、「専業非常勤」25.7%、「常勤職あり」10.8%と「専業非常勤」の方が「常勤職あり」より2.4倍も多くなっています。こうした評価は、先にみたような研究時間数が「専業非常勤」にとってやっと確保できた研究時間であるということを示しているといってよいでしょう。研究時間の不足に対する「専業非常勤」のいらだちが伝わってきます。
図III-9 研究時間
専業非常勤 | 定年後型 | 常勤職あり |
専業非常勤 | 定年後型 | 常勤職あり |
「定年後型」
= 大学等を定年退職した後に、大学での非常勤講師をやっている人
「常勤職のある人」
=「大学専任」大学での専任教員をしていて、大学での非常勤講師もやっている人
+「大学外常勤」大学以外での常勤の仕事 (ジャーナリスト・弁護士等) があり、大学での非常勤講師もやっている人