II 非常勤講師の働き方
1) 非常勤講師勤続年数
2) 勤務校数
3) 担当コマ数
4) 実習・演習の担当
5) 出講の曜日・時限・通勤時間
6) 出講地域数
7) 賃金の支払われ方

 この章では、非常勤講師が、日頃、どのように働いているのかについて、勤続年数、勤務校数、担当コマ数、担当科目、出講の曜日・時限、通勤時間、賃金支払い形態にそくして見てみましょう。
1) 非常勤講師勤続年数
 まず何年非常勤講師として働いているかですが、表II-1に示したように、全体では、平均10.6年です。そのなかで専業非常勤にのみ注目すると、図II-1に見られるように「5年まで」の人が33.1%おり、逆に「11年以上」の人が39.5%います。そのなかには、「21年以上」の長期の人も11.6%います。I章で示した年齢の表I-2で41歳以上の人が61%いることを合わせてみると、不思議ではありません。すなわち、非常勤講師は専任になるまでの橋渡し期間ではなく、恒常的に存在する地位であることです。ちなみに、一般的に私立大学の語学の非常勤講師依存率は、5〜7割であり、専任教員より多いのが実情です。
表II-1 大学非常勤の経験年数 (単位:人)
年数専業非常勤定年後型常勤職あり全体
1-5年5183695
6-10年42112376
11-15年2411742
16-20年194427
21-25年120820
26-30年5128
31-35年1113
36-40年0314
合計1542992275
平均10.4年13.4年10.1年10.6年

図II-1 大学非常勤の経験年数 (専業非常勤)
2_1

2) 勤務校数
 次に非常勤講師一人でいくつの勤務校を持っているかですが、図II-2にしめしたように、「専業非常勤」では、1校が22.7%、2校が27.3%、3校が23.4%、というところです。4校掛け持ちの人も珍しくなく15.6%います。最高は8校で、平均すると2.7校です。しかし、勤務校数だけでは、仕事のつらさははかれません。ひとり、一週間にどのくらいの授業コマ数をもっているのかを見なければなりません。

表II-2 勤務校数(単位:人)
勤務校数専業非常勤定年後型常勤職あり全体
1校35112268
2校42133994
3校3632059
4校2421137
5校110011
6校4015
7校1001
8校1001
合計1542993276
平均校数2.7校1.9校2.3校2.5校

注)勤務校とは、大学、専門学校、予備校、学習塾などをいう。

図II-2 勤務校数 (専業非常勤)
2_2

3) 担当コマ数
 1週間にどのくらいのコマ数をもつのかを示したのが表II-3と図II-3です。図II-3は、「大学非常勤のみの人」の週コマ数を示したものです。1〜5コマの人が28%、6〜10コマの人が35%、11〜15 コマの人が29%います。中には、16〜22コマも持つ人が8%います。平均は、8.5コマです。表II-3は、「専業非常勤」を「大学非常勤のみの人」と「大学非常勤に加えてさらに専門学校や高校などの教育職の非常勤やその他の仕事をもっている、予備校等兼職」、のふたつに分けてみてみました。「大学非常勤のみの人」では、平均8.5コマ、「予備校等兼職」では、大学とその他の教育職を加えた平均コマ数は8.5コマ、それになんらかの就労時間が平均2.0時間加わります。この両者の教育職の平均8.5コマという持ちコマ数は、専任教員の義務コマ数が4〜5コマと比較すると約倍の数です。また1コマ月あたりの賃金が約25,000円ですから、月あたりの賃金が21万円強となることがわかります。詳しくは所得と生活の章でみることにしましょう。

表II-3 担当コマ数(一人当たり1週間にもつコマ数) (単位:コマ数、時間)
 大学の担当コマ数平均大学以外の担当コマ数平均その他の就労時間数平均
専業非常勤大学非常勤のみ8.500
予備校等兼職5.62.92.0
定年後型3.40.030.8
常勤職あり大学外常勤3.30.68.5
大学専任8.3 *00
全体6.7コマ0.6コマ1.8時間
*「大学専任」の「大学の担当コマ数平均」には専任校での担当コマ数としての平均5.6コマが含まれている。

図II-3 担当コマ数 (大学非常勤のみの人)
2_3

注)大学以外とは、専門学校、高校、予備校、塾をいう。

表II-4 専業非常勤の専門分野別平均持ちコマ数(単位:コマ、人)
 大学非常勤のみの人 予備校等兼職
専門分野大学コマ数人数大学コマ数+大学外コマ数その他の就労 (時間)人数
文学 他10.7328.9 + 4.206
語学 他9.1397.4 + 3.11.39
歴史地理8.343.7 + 4.82.45
保健体育8.328.5 + 2.802
哲学宗教7.966.3 + 3.205
数理工7.851.3 + 5.302
心理教育7.027.0 + 1.0151
芸術5.384.1 + 8.04.37
社会5.233.8 + 2.01.33
経済経営5.233.0 + -101
農林水産3.01--0
法学政治2.52--0
その他7.442.7 + 2.02.33

 平均の週コマ数をみましたが、非常勤講師の皆さんのなかには、8.5コマを「少なすぎる」と思われる方や、「いや、コマ数はそんなにないはず」と思われた方がおられることでしょう。その疑問は、専門分野によるコマ数をみるとはっきりします。表II-4は専門分野によってコマ数を分類したものです。
 これによると、「語学、文学系」の非常勤講師の平均コマ数は10.7〜 9.1コマと多い一方、それ以外の分野は「法学・政治」の平均2.5コマに至るまで少なくなっていることがわかります。ということは、大学での非常勤講師の需要が比較的小人数のクラスを必要とする語学教育に多くあるということです。と同時に、そのことは、「語学、文学以外の専門分野の非常勤講師」は、大学非常勤講師のみに依存した生活はむずかしいことを意味しています。その証拠に通訳や翻訳や芸術などの専門能力を生かした仕事が社会的に確立している分野を除くと、大学でのコマ数の少ない「語学、文学系以外の分野の非常勤講師」の「大学外のコマ」や「教育職外の就労時間」が多くなっているのです。「語学、文学系以外の分野の非常勤講師」である政治学の場合、ある専業非常勤講師は、大学でコマを増やそうとすると、自分の専門をはなれた研究を余儀なくされていき自分の専門の周辺知識のみが集積され、論文を書くことから遠ざかることになると述べています。コラム「専業非常勤残酷物語」をごらんください。

専業非常勤講師残酷物語 B A大学非常勤講師 (45歳)
 社会科学系の博士課程を出て14年になる。大学院を終了してから数年間は、進学塾でアルバイトをしながら、大学での非常勤は週2コマという生活が続いた。非常勤の口は塾だけでは食っていけないだろうと心配してくれた先輩ODのAさんが世話してくれたのである。
 ある日それほど親しいわけでもないODのBさんから電話がかかってきた。「君、○○の科目できるか?」「でき無くはないと思いますが、専門というわけではありませんし、今からだと準備が大変なので...」と言って断った。ただでさえ遅筆のわたしが、これ以上コマ数を増やすわけにはいかない。また必要以上に金がいるというわけでもない。断るのはわたしにとってはごく自然のことであった。数年たって塾が倒産したとき、Aさんからこういわれた。「君から頼まれていた非常勤の話、Bさん (Bさんはすでに某大学に就職しておられた) に頼んでみたけどあかんかったわ。君、以前、Bさんの話、断ったんやってなあ。もう君には頼まん、言うてたで。なんか、根に持ってたみたいやで。」
 それから数年して、教授のCさんから電話があった。「君、△△の科目できるか?」「専門ではありませんけど、喜んで担当させていただきます。自分の勉強にもなりますし。」「ほな、頼むわ。」自分の勉強になるというのは本当である。しかし、その講義の準備が自分の論文に結実するわけではない。その科目が専門とほど遠いこともある。しかし断ったら最後、「次はない」というのがわたしの経験である。こうやって今までどれぐらい畑違いの分野の勉強をしてきたことだろう。もちろん、わたしのことを心配して非常勤の口を持ってきてくださるのは本当にありがたいことである。しかし、反面、結構便利に使われているなとも思う。そのための非常勤じゃないかという声も聞こえてくる。
 40歳近くになって結婚した。つれあいも非常勤である。いままで老後の蓄えなどまったく考えないで生活してきたこのわたしが、「万が一」ということを考えるようになった。そしてかなりの無理をして保険にも入った。そのほかにも年相応の出費が必要だ。お金のために、遠く離れた専門学校や予備校へも行くようになった。科目はほとんど専門外である。政治学、国際関係論、世界史、地理学、日本法制史、法学概論、英語、ドイツ語、エトセトラ。こんなに働いても本一冊さえ買えない月がある。研究時間も思うようにはとれない。こんなことではいけないと思いつつも、こうして間口は広いがそこの浅い、ほとんど論文を書かない「何でも屋」が日々再生産されていく.....
(京滋地区大学非常勤講師組合:機関誌より)
4) 実習・演習の担当
 授業内容の特徴に移りましょう。表II-5は、大教室の講義とはことなり、学生ひとりひとりを教育する必要のある、語学授業、実習、演習、実技、実験などの授業を非常勤講師がどのくらい担当しているのかをみています。すでに注目してきたように、語学授業では、専業非常勤90名が平均8.9コマ担当しています。音楽実技や芸術工芸実技や体育実技を担当する「専業非常勤」は、それぞれ11名、3名、3名で、ひとりあたり、平均5.3コマ、2.8コマ、7.8コマ担当しています。思いのほか多いのが演習です。「専業非常勤」の該当者が19人おり、一人当たり、平均2.3コマ担当しています。演習担当のある非常勤講師は、「学生ひとりひとりの実力状況がわかり、教育のやりがいがあるとはいえ、新学期の4月にコンパなどの費用に5000円支出すると、月給25000円の5分の1にもなり、つらいものがある」とのべています。
 総じて、大規模の私学では、これらのクラスが小単位となり、学生間や学生と教師のコミュニケーションがはかれる場になっていることが多いのです。非常勤講師が担当するのであるならば、大学は、専任教員の研究室のようなコミュニケーションの場所や、あわせてそれに要する時間や費用を保障することが必要になっているといえます。

表II-5 語学・実習・演習担当平均コマ数(単位:コマ、人)
 専業非常勤 定年後型 常勤職あり 全体
コマ数人数コマ数人数コマ数人数コマ数人数
語学8.9902.845.3138.3107
音楽実技5.311-07.035.714
芸術・工芸実技2.83-03.333.16
体育実技7.83-01.025.15
演習2.3191.362.1202.045
実験3.64610.513.56
その他実習4.99-01.824.411
合計7.21392.2113.4446.0194

5) 出講の曜日・時限・通勤時間
 いままでみてきたような、働き方が一目でわかるのが、1週間の時間割表です。そしてこの時間割表の前後、あるいは、コマとコマの間にあるのが通勤時間です。
 Aさんの時間、図II-4を見てみましょう。 Aさんは8校受け持ち、週21コマ働く語学の非常勤講師です。月にして50数万円の収入があるでしょう。表面上の月収のみを見るかぎりでは、40代の専任教員とかわらないといえます。しかし、通勤時間は少ない曜日で1日3時間、多い曜日で1日7時間30分です。例えば木曜日に2校かけもって通勤に4時間かけるとすると、朝は少なくとも6時半には家をでて、1講時目の授業の30分前には大学に着いて授業準備をして、1, 2講時を終え、昼休みと空きの3, 4講時で昼食と移動と授業準備のための印刷や音声装置のテストをして、5, 6講時を終えると7時30分になり、それから、帰路2時間として午後9時30分に帰宅となります。水曜を除くすべての曜日に1講時から授業があり、5講時まである日が2日、6講時まである日が2日です。月、火、水、木の空き時間は、全部大学間移動と昼食と授業準備時間にあてられることでしょう。かろうじて、金曜日が3講時までですが、土曜日が2講時まであります。

図II-4 Aさんの出講時間割表
  
一講  
二講 
三講     
四講     
五講   
六講     
七講       
注)○印が出講している時間帯
 Aさんの1週間の労働時間をおよそ計算すると、純粋な授業時間31.5時間、大学での印刷などの準備時間11時間、あわせて42.5時間、それに通勤時間約24時間を加えると合計少なくとも66.5時間になります。労働時間が週40時間(8時間×5日)の一般的なフルタイマー労働者と比べると、フルタイマー労働者の労働時間は、通勤時間10時間をいれても約50時間ですから、Aさんは、一週間につき、およそ16.5時間多く時間を費やしていることになります。同職種の専任教員では、校務を2コマ分いれて週7コマになったとしても授業および校務で週10.5時間、準備時間5コマ分3時間、通勤時間2時間×3日=6時間で合計して、約19.5時間です。Aさんはざっとみても専任教員の3倍以上、仕事に費やしていことになります。
 しかし、この1週間のめまぐるしさと気ぜわしさは、時間のみで表すことのできるものではありません。Aさんは、アンケートの自由記載欄に紙を継ぎ足して書いています。そこから、要約しましょう。
 授業と授業の合間の10分休憩に、終わった授業の教材を非常勤控え室に運び戻し、また次ぎの授業の教室に運び、古い音声装置の調子をテストして、準備をしなければなりません。この間にトイレに行こうとすると、学生と共用の場合は混雑し、別に女性教員用のトイレがあっても学生が常時使っている場合が多く、そんな時には、教材を両手一杯にもって、別のトイレにまわることにもなりかねないといっています。また、大人数のクラスに配布するための教材の印刷は時間がかかり、待っている他の非常勤講師に迷惑をかけることになる。さりとて、事務に印刷を頼むとあまりいい顔してくれない。しかたなく、一時期、教材印刷のためにのみその大学に出向き、空いている時に印刷をしたといいます。
 休憩時間に混み合うトイレや、教材の印刷の問題や、事務の差別的対応の問題は、時間にしばられながら、大学を掛け持ちする非常勤講師がかかえる特有の事柄であり、専任教員や事務員には見えにくいストレスとして浮上することになるのです。非常勤講師を大学がどのようなものとして、位置づけているかについては、第Y章で詳しく見ます。
 ちなみに専業非常勤講師の間では、ジンクスとして、「週20コマ以上働いたら、身体をこわす」といわれています。たとえ語学のように働き口が比較的多くあって、一人前の稼ぎができたとしても、それは、相当の長時間労働とストレスの代償によって得られるものでしかありません。長い労働時間や通勤時間の根本的な解消には、月収1コマ約25,000円というコマ単価を引き上げることが必要になるでしょう。
 通勤時間については1日につき、10分から10時間までさまざまですが表II-6にあるように、最短時間の日で平均106分(約1.5時間)、最長時間の日で平均189分(3時間9分)です。この長さは、担当する大学の地域に関係します。つぎにその状況をみてみましょう。

表II-6 専業非常勤の1日の通勤時間(勤務先間移動を含む)(単位:分)
平均147分最短日平均106最長日平均189
最大時間600600
最小時間1030
注)複数の勤務先を持つ場合、通勤に要する時間は日によって異なる。最短日は1番短い日、最長日とは、1番長い日をいう。

6) 出講地域数
 出講地域を京都府・滋賀県地域(京滋)、大阪府・奈良県地域(阪奈)、兵庫県地域(兵庫)、その他の4つに区分けしています。図II-5に示したように、いちばん流動性の高い「専業非常勤」でみると、約半数が1地域内であり、残り半数が2〜3地域をかけめぐっています。3つの地域を掛け持つ人も7.8%あり、京都〜大阪〜神戸の3都めぐりはレジャーの観光の話ではないのです。一般のサラリーマンと同様に、電車の車窓からみえる風光明媚な景色をよそに、席を確保して授業準備や睡眠に当てていることはいうまでもありません。

表II-7 出講地域数 (単位:人)
 専業非常勤定年後型常勤職あり全体
1地域771765159
2地域6582194
3地域121417
4地域0112
合計1542791272
注)地域とは、出講地域を京都・滋賀(京滋)、大阪・奈良(阪奈)、兵庫、他の4地域に分けたものをいう。1地域とは、このうちいずれか1つの地域をいい、2地域とは、いずれか2つの地域にまたがるものをいう。4地域とは、4つのすべての地域にまたがるものをいう。

図II-5 出講地域数 (専業非常勤)
2_5

7) 賃金の支払われ方
 賃金の支払われ方をみましょう。非常勤講師給の支払われ方は、大学その他の教育機関によって、また、授業内容によってことなり、「夏休みや春休みなどの休暇中も支払われる月給制」と「休暇中は支払われず、実際に行った授業にしか支払われないもの」とがあります。コマ数でみると表II-8と図II-6にしめしたように、月給制が1334コマで86.0%、実施した授業数のみに支払うものは194コマで12.5%です。

表II-8 賃金支払い形態(単位:人、コマ、%)
 月給制実施した授業分のみその他合計
人数2549037381
コマ数1334194241552
コマ数の割合86.0%12.5%1.5%100%
注)[月給制]とは、ここでは、夏期休暇、冬季休暇、学期末休暇においても、賃金が支払われるものをさす。[実施した授業分のみ]とは、これらの休暇中ばかりか、学期中でも休んだ授業には支払われず、実施した授業にのみ支払われるものをいう。

図II-6 賃金支払い形態
2_6

「専業非常勤講師」
=「大学非常勤のみの人」大学での非常勤講師だけを仕事としている人
+「予備校等兼職」大学非常勤以外に、予備校、専門学校、高校、塾等で非常勤の仕事を持っている人

「定年後型」
= 大学等を定年退職した後に、大学での非常勤講師をやっている人

「常勤職のある人」
=「大学専任」大学での専任教員をしていて、大学での非常勤講師もやっている人
+「大学外常勤」大学以外での常勤の仕事 (ジャーナリスト・弁護士等) があり、大学での非常勤講師もやっている人