負くるまじ屈するまじと教壇 (だん) に立つ 日々のたたかいわれは生くなり
権力 (ちから) にぞ立ち向かいたるクライストの コールハースのわが中に生く
神戸大賃下げ撤回勝ちとりし 受話器の声に励ましを聞く
来らば来よ賽は投げたるわが身にて 猛きあらしに顔 (おもて) そらさず
心安く同期の専任われに笑む まことはあれど彼は彼なり
「たかが選手」言い捨て去りし権力者の いずこにも見ゆ分身のごと
イヴ紡ぎアダム耕ししその時代 (とき) に たれぞ専任たれぞ非常勤
終講後質問寄せ来る子らの目に 疲れ忘るる仮のひととき
手さぐれど歩めど交渉出口見ず 立体迷路と友は笑えり
ゆらゆらと通勤バスに揺られつつ 定めなき身の行く末思う
帰宅してお笑い番組腹抱う まだ大丈夫われは笑える
屈従を和と呼ぶ犠牲を連帯と 錬金術はかくのごときか
かくほどに気強き娘と思わざりし 老いた両親 (ふたおや) われを見守る
十八の入学時より教え受く 師に歯向かえる今ぞかなしき
あなかしこタイムスリップの心地せり 士農工商専任非常勤
AはA同一律より除かるる 同一労働同一賃金
「不満なら辞めてもらっていいですよ」 軽き声宣ぶ事もなさげに
威張りいる組織のロボット彼らとて 使い捨てらるさだめあらずや
その強さあやかりたしと拝み見る 雑誌写真の古田敦也氏
大学もかくあれかしと浴室の 黒かび落としつ日曜の午後
「和を乱す」言わるはこれで二度目なり 研究盗用訴えし時と
声あぐる馬鹿は先刻承知なれど 泣き寝入りする馬鹿よりはまし
勝ち組を誇るる人も何びとかの 奴僕にすぎず気づかぬあわれ
あこがれつ生涯われに縁なしか 厚生年金夫ボーナス
人の世につくづく倦みしわが前を 餌ねだり来る金魚のももちゃん
組合を脱けて教授に泣きつきし 彼の弱さをたれか責め得ん
こにまさる恐ろしきものなし地位という 名の鬼人の心失くしむ
守りたまえと地蔵に祈りし帰り道 冬の日ざしはわれに優しき
徒党にて破廉恥なせし若者の 大学これをけして笑えず
和をもって尊しとなすその実は 陰にて泣く者なきと見なさる
アテナイを奴隷支えり本学も 建学理念は民主主義とや
あれも良しこれも教材にと給料を はるかに出づる必要経費
人品と教養高き学の府に ルサンチマンのみ厚くぞつもれる
仕官せる武士より浪人腕が立つ テレビの中の絵空事かは
村八分なさる方よりなす方の 心弱きを天ぞ示せる
同社なるスターに殴られ訴えし 女性の気持ち少しくわかりぬ
もう嫌と転職よぎりしその度に 学への思いわれをとどめぬ
ビートルズとてオーディション落とされた 何くそとばかり通知を破く
公募とは既に決まれるならいとか ならはじめから私募と言えバカ
労災がこれほど欲しき時はなし 学生に風邪うつされ伏す夜
九度近き熱に克ちたるわが身体 わが心をも強くみちびけ
通勤の後部座席はどの教授 引きこもれる子の愚痴こぼしおり
何のため失業保険われらこそ 必要なれど下りぬは不思議
いにしえの赤穂の義士の討ち入り日 団交成れるをひたすら祈れり
人生はゲームにすぎずしかれども 強制参加のゲームなりけり
日々やこれ血流す思いにて生きにしを この苦しみやいつか止むらん
要求になしのつぶてで年暮るる われに縁なし街のにぎわい
弱き者弱きと知りて踏みしだく 族(うから)に生まれずわれは幸せ
せんにんになりたく思いせんにんに 幻滅おぼゆ杜子春かわれは
生活を守る必要なき者が 必要ある者利己とそしりき
専任が名を連ねいる 「暴力論研究会」に違和おぼえたり
暴力は研究するものにあらずして 受けて初めて思い知るもの
反則を用いてなせる勝ち組など われは一生入りたくもなし
吾(わ)に向かい組合運動迷惑と 言いし教授の専門マルクス
職業としての学問かくほどに 堕落しつるをウェーバー嘆かん
憤懣も疲れも憂さも切りかえて 背筋伸ばして教室に入る
何とまあ安きものなりわが学も わが人格もわがたましいも
カツ丼を食し交渉に備う夜 あした待たるるその宝船
先見えぬ人生なおも生くべきか 生きざるべきか答えつかめず
大部分の授業こなしつ教員に カウントされぬわれら幽霊
三時間の交渉終え帰途車中にて 浮かびきたるははや明日の授業
とりあえず道は作りき非常勤の 皆さんわれのしかばね越えゆけ
存在が意識作るとマルクスの 言葉きょうこそ真に迫れり
交渉中何かに似たるとおぼしきは 言葉通じぬ北の某国
非常勤で食えぬは当然ほか探せ あっさり教授言い放ちにき
非常勤は使い捨てですかどうですか 正面より訊かば皆否定しおり
交渉の席にて窮状訴うる 加勢の友もわれも涙声
勝たざりきしかれどもまた負けざりき 正すを正し今宵は休まん
土足もて踏みにじらるる身にてこそ なべてこの世の本質見え来る
警察に息子殺されし母親の 組織を相手の勝利ことほぐ
交渉に気取らるるわれに物言わず 骸となりてポン太浮かべり
設問の意図も使用の目的も わからず強いらる授業アンケート
娘さんまだ非常勤まだ独身? 肩身狭きを母はこぼさず
病める身をおして吾(わ)の学支え来し 母に報ゆはついにかなわじ
害さるることはありてもみずからは 人を害さず誇れる人生
院生のうちは大事なお客様 出ればODという名のお荷物
生涯を埋もれて終わる人びとの 学究の汗よ日本の損失
大学の教養教育衰退を 人切らば良しと教授案ぜず
専任率上げるは結構異存なし 専任増やせ非常勤削らず
百姓は生かさず殺さず百姓を 非常勤と変え今も鉄則
雪おこしに混じりて除夜の鐘聞こゆ 年越す交渉の前途祓うごと
元旦や一年単位の身にあれど 一年単位の幸を祈れり
どうせあと二十年もせば逝きぬべし われを害せる者らもわれも
甲斐のなき教授連中に書く賀状 今年より廃し清(すが)き心地す
こちからは出さねどくだんの教授より 賀状雪水ににじみて届けり
年末にテーブルはさみて対峙せし 教授病みぬを賀状にて知る
悲しきを悲しきままに耐え来つる 人生悲しきままに終わるか
何をなすにも力関係ものを言い ここは人界それともサル山
バスに満つ若者の臭気なつかしく 仕事始めの意欲喚起す
コマ減を困るとこぼす同僚に ビラ見せばつと表情硬くす
身の不当嘆くだけでは何一つ 変わらぬを知れ勇なき同僚
天に今一度問いたし天われを 踏みしだかるため生み出ししかと
阿呆らしいやってられるかという気持ち ひたに隠してシラバス綴る
快活に女性運転手の声ひびく 仕事への愛バスを明(あか)くす
非常勤のうちいかほどに上りけん 学より社交の才欠くる者
非常勤講師と契約職員で ストせば大学瞬時にフリーズ
おざなりな教授に馴れし学生が 最終日のみ単位乞い来る
モティベーション下がるが自然の境遇を 学生に罪なくわが身鞭うつ
団交の席にて録音禁止とは 語るに落ちぬ責(せき)なき言の葉
不可解な団交拒否に鬱々と 皆と別れて夕食二度食う |